古代九鍼は、皇帝内経 漢時代(BC200~AD200)中国最古の医学書です。伝説上の皇帝と岐伯(きはく)の問答形式の古典の名書です。『素問』9巻と『霊枢』9巻からなり、『素問』は医学書で『霊枢』は鍼灸書と言われています。この皇帝内経太素は、AD667に日本で、皇帝内経の項目を類別し、注訳を加えたものです。

この中国最古の医学書に、鍼は九種類の鍼があると書かれています。破る鍼(切開する)、刺入する鍼、刺入しない鍼の3つに分ける事が出来ます。破る鍼(切開する)1.鑱鍼 4.鋒鍼 5.鈹鍼、刺入する鍼は、6. 圓利鍼 7.毫鍼 8.長鍼 9.大鍼、刺入しない鍼は、2.圓鍼 3.鍉鍼です。

鍼治療は、この古代九鍼を使いこなし治療にあたることが、効果のある鍼灸治療です。古代九鍼は鍼灸学校ではほとんど勉強致しません。国家資格を取得してから、講習会(九鍼研究会)などで何年もかけて勉強していきます。今回は古代九鍼を簡単に説明していきます。

 

黄帝内こうていだいけいという書物のなかに、当時使われていた鍼を9つに分類した古代九鍼というのがあります。

1. 鑱鍼(ざんしん)

【鑱の字義】

昔の書物に「ざんするどいなり」に基づき鍼尖しんせん鋭いするどことから鑱鍼と名付けられた。

【古典の記載】

長さ一寸六分(4.8cm)。鑱鍼なる者は、頭は大にして末は鋭く、※陽氣ようきり※しゃす。

※ 陽気:陽性の気の働きをいう。

※ 寫・瀉:ありすぎるもの抜き取ること。

【操作法】

皮膚面に当てる圧と鍼を擦る動作のスピード、鍼を当てる角度で調節する。圧が強くスピードが速く当て方が皮膚面に対して鑱鍼の鍼が立つほど瀉的要素がある。

【刺激量の目安】

発赤または赤みが落ち着く。発汗でやや抵抗感が増す。すべすべして心地よい。皮膚の光沢が増す。熱感が落ち着く。四肢が温まる。鍼をしながら常に観察し刺激の限度を判断していくが重要。「診断→施術→変化の確認」の流れで瞬時に繰り返してく。

【各体の部位へのアプローチ】

 

頭部:軽度ののぼせに対しては、頭長から下へなでこするように施す。重度ののぼせには鑱鍼よりもほうしんてきしている。

背部:頸部、肩甲骨周囲はやや弧を描くように上から下に向かって施す。※こうけつなどに対しては背骨を横切るようになでこすると効果的である。

※ 硬穴:筋肉などが固くなったものをいう。

上肢・下肢:発赤ほっせき熱感ねつかんのある部位ぶいたいしてうえからしたたいかんから末梢まっしょう方向ほうこう施すほどこ

【臨床応用】

感冒:初期症状である項背のこわばりに対して鑱鍼の刃の部分でやや発汗を促すようになで・こする。

小児疾患:夜泣きには背中を上から下にこする。

【注意事項】

鑱鍼は瀉的作用を得意とする鍼であり、白く冷えて力のない部位には適さない。鍼の苦手な方、過敏体質、小児への応用としては、刃の先端を用いて散鍼さんしんする。皮膚の柔らかい人や小児の場合には、エッヂを立てると刺激過多になるため鑱鍼の刃の部分を横にしてなでこするようにする。強い凝りに対しては、刺激が過多にならないようにする。また痛みのないように鑱鍼の刃の部分で数分なでこする。皮膚の発赤、発汗を目安に行うとよい。

2. 圓鍼(えんしん)

【圓の字義】

「丸印+鼎」で丸い形の器を示し、「まるい」という字義で円の原字。

【古典の記載】

長さ一寸六分(4.8cm)。圓鍼なる者は、はり卵形らんけい如しごと分間ぶんかん揩摩かいまし、※にくきずるを得ず、以って分氣をしゃす。

※ 肌肉:皮膚の下層を指し、皮下脂肪または浅い筋肉がこれにあたる。

【操作法】

鍼尖しんせん皮膚面ひふめんに接し、なでこする。※経脈けいみゃく肉間にくかんの※えいえいを行らすため、「鑱鍼」よりも少し圧を加えて施す。その際左手を右手に追従するようになでこする。皮膚の発赤と潤いを目標とする。

※ 経脈:気血のめぐる通路もしくは管をいう。

※ 営衛:おもに皮膚にあっては、外からの病因を防ぐ働き。

【刺激の調整】

弱い刺激:皮膚面に対し鍼尖を斜めに接し、ぶん肉間にくかんに沿って軽く按圧あんあつする。

強い刺激:皮膚面に対し鍼尖を垂直に接し分肉間に沿ってやや強く按圧する。弱い刺激の場合よりも少し早い動作で施す。

【適応病態】

虚弱な人の痛み、凝り、知覚鈍麻、冷え等を対象とする。

【臨床応用】

分肉間の気を※疎通することで効果が期待できるものに用いる。小児疾患、側頚部、背部、上肢下肢、幅広く用いる

【注意事項】

痒みや体表に表れている熱性症状への効果はさほど期待できない。

 

 

3. 鍉鍼(ていしん)

【鍉の字義】

「まっすぐでうすい」「刃の切っ先」という字義。もとは匙(さじ)の形をさしている。

【古典の記載】

長さ3寸半(10.6cm)。鍉鍼なる者は、鋒はしょぞくの鋭の如く、みゃくあんずるをしゅり、おちいらしむことなかれ、以って其のを致す。

【操作法】

持ち方:鍼尖を拇指ぼし示指じし中指なかゆびの三指で保持する。鍼尖を皮膚面に垂直にあて接触する。

経穴への操作:経穴の軽い接触を施しけいを補い、邪気を抜く。鍼先は丸いものと鋭利なものとがある。

【適応病態】

気の少なき人への※接触せっしょくしんとして用いる。※きょ、※気滞きたい、※経筋病けいきんびょうには、鍼尖を使用し気の調整主とする。毫鍼では対応しきれない虚に用いると効果的である。

※ 接触鍼:皮膚に差し込むことなく効果を得られる鍼

※ 気虚:元気がないこと

※ 気滞:気の流れが滞っている

※ 経筋病:経筋がしびれや引きつれ等の運動障害を起こした状態のこと

【臨床応用】

気少なく鍼の刺入困難な人。腹部に打鍼代わりに用いることができる。鍉鍼を美顔ローラーのように横にして顔面部をこすることも可能である。※補的には{金>銀>チタン>プラチナ>ステンレス}のような順序となる。瀉的には{プラチナ>ステンレス>チタン>銀>金}のような順序。

※ 補的:不足分をたしていくこと。

【注意事項】

鍼尖鋭利な鍉鍼では、圧をかけすぎないようにする。鍉鍼を通じて※邪気の発散、気の流通を感じとれるように試みる。

 

 

4. 鋒鍼(ほうしん)

【鋒の字義】

鍼尖が矛のように鋭利でじょにのっとり、筒状から先が鋒で刃三隅なのでさんりょうと呼ばれる。「△型にとがった刃先」という意味もある。鋒鍼を使用した刺絡しらく鍼法しんぽうの症例はそれだけで出版物が可能なほど集めることができる。今でこそ毫鍼が主流であることから、刺絡鍼法は特殊鍼法として位置づけられているが、本来の鍼の起源は刺絡鍼法から起こったと思われる。

【古典の記載】

長さ1寸6分(4.8cm)。鋒鍼なるものは、刃三隅、以て痼疾こしつはつ

【操作法】

そく刺法しほう→四肢末端によく使う。場所により吸角を使う

ちょう刺法しほう→胸背部の皮膚が柔らかく筋肉の薄いところにたいしては速刺法ではうまくいかないので押し手の母指と示指でつまんだり、ひっぱたりして患部を緊張させて刺す方法である。

刺法しほう→捻挫、打撲のとき幅広い患部を囲むように刺す方法である。

 

 

5.鈹鍼 (ひしん)

【鈹の字義】

剣にのっとり鍼尖がけんぽうのようになっている。ようなどを切開して大膿を排除する。「平らに押し開いた形をした、大刃の刃物や鍼」という説。

【古典の記載】

長さ4寸。廣さひろさ二分半。鈹鍼なる者は、末はけんぽうの如く、以て大膿を取る

【臨床応用】

単純な水腫病すいしゅびょう場合ばあいは、環跳かんちょう穴の下三寸を鈹鍼で刺した後、そこに筒状の鍼を入れ、中の水を放出させる。なかの水を抜き尽くして筋肉を正常の堅さに戻す。放出が早い場合は安静である。一日置きに一回行い、水腫がなくなればやめる。

【操作法】

現在は使われてない。

【適応病態】

化膿性疾患

【臨床応用】

関節水腫、化膿、外科分野に用いる

【注意事項】

感染、膿の大きさ深さに注意する。現在日本の現行法では排膿を目的とした鈹鍼を鍼灸師を使用することはできない。ただし他国ではその限りではない。

 

 

6. 圓利鍼(えんりしん)

【圓・利の字義】

圓利という熟語はないので、字義はそれぞれ別に考える。圓は「丸印+鼎」で丸い形の器を示し、「まるい」という字義。円の原字。利は「朱+刀」稲束を鋭い刃物でさっと切ることである。転じてよく切れるという意味。

【古典の記載】

長さ1寸6分(4.8cm)。圓利鍼なるものは、大なることぼうの如く、且つ圓く且つ鋭く、中身をして微や大ならしめ、以て暴氣(急性の病)を取る

【操作方法】

刺入する経穴または部位を母指頭で押さえる。爪に沿わせるように鍼の先端を接触させる。呼吸に合わせて、押しでを引き上げると同時に刺入する。

【適応病態】

急性の※気滞血瘀きたいけつおや※かんじゃによる※痺証ひしょう・※中風ちゅうふう経筋病けいきんびょうや頑固な気滞血瘀による瘢痕はんこんなどに用いる。※けつ虚損きょそん過敏かびんひとには注意が必要である。

※ 気滞血瘀:気の流れが滞っているため血流も滞る。

※ 寒邪:体が冷えること

※ 痺証:痺とは詰まって通じないこと。気と血が阻滞したことにより肢体の運動機能に影響が及んだ病証。

※ 中風:脳血管障害の後遺症である半身不随、片まひ、言語障害、手足のしびれや麻痺などを指す言葉。

【臨床応用】

慢性の神経痛、筋肉痛、関節痛、寝違い、痙攣けいれん

 

 

7. 毫鍼 (ごうしん)

【毫の字義】

「毛+音符高の略体で、丈の高い毛」の字義である。

【古典の記載】

長さ3寸(9cm)。毫鍼なる者は、尖はあぶかい如くごと、静かにして以て徐に往き、微にして以て久しく之を留めて、養い、以て※痛痺つうひを取る。

※ 痛痺:気や血が滞っていること

 

【操作方法】

毫鍼は現在最も多く用いられている鍼であり、その操作方法は多彩である。操作方法については優れた書籍が多数出版されている。

【適応病】

陰陽いんよう表裏ひょうり虚実きょじつ寒熱かんねつ問わず、全疾患に適応できる。きわめて微弱な刺激や、強刺激で迅速な効果を求める場合はほかの鍼の選択を考慮すべきである。

【臨床応用】

すべてに適する

 

 

8. 長鍼(ちょうしん)

【長の字義】

老人が長い頭髪をなびかせて立つ様を描いたものである。材質は目的に応じて金、銀、ステンレスを使用する。日数の経過した深い場所の痺証※に対し効果が期待できる。

【古典の記載】

長さ7寸。(21cm)長鍼なる者は、鋒は利く身は薄くして、以って遠痺とおひを取るべし。

【臨床応用】

慢性の痺証、経筋病、※五臓気血虚損による疾患

※ 五臓気血虚証:過労に慢性病等により五臓が損傷する状態。

 

 

9. 大鍼(だいしん)

【大の字義】

「人間が手足を広げて大の字に立った姿を描いたものでたっぷりとゆとりがある」という字義。

【古典の記載】

長さ4寸。(12cm)大鍼なる者は、尖は挺の如く、其の鋒は微や員く、以って機關(きかん)の水を寫すなり。

【操作方法】

穴を定め、押し出の拇指と示指で大鍼を垂直に保持する。押し手は強めに上下圧をかける。刺し手で鍼体から鍼柄にかけてしっかり保持し、上下圧を緩めると同時に一気に皮切する

補的操作:気滞血瘀による硬血の大きさ、深さに応じて、太さ長さ材質の決定をし、硬穴が砕け緊張が緩んだ時点で速抜あるいは緩抜。

【臨床応用】

脊椎分離症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症

【注意事項】

金、銀の大鍼は虚穴への補を目的とし、ステンレスの大鍼は実穴への瀉を目的に利用できる。

「九鍼実技解説」緑書房より抜粋致しました。